14歳というとき

 オーストリアの哲学者であり教育者だったルドルフ・シュタイナーは、「人間とは何か」を生涯探っていきました。そして、人は7年毎に発達の段階が違うという見方をしました。生まれてから7歳までの第一7年期は「意志」が育つとき。泥んこ遊びや海辺の砂での砂遊び、山の中のゴツゴツした崖登り、川で石の上を歩く、などなど、、、自然の中で全身を使って思いっきり遊ぶことで、子どもたちは(大人たちも)たくさんの感覚を総動員することになり、私たちの基盤となる「意志」の力が育っていきます。岩肌や木の枝、泥を触った感じ、木々や花の匂い、鳥のさえずりや波の音、移り変わる夕焼けの色、そして焚き火の中で焼けた焼き芋の美味しさ、、、この時期に大切な”遊び”を通して、感覚を大いに使って過ごしている子どもたちの目はいつもキラキラ、好奇心と希望で満たされています。

 そんな風に意志を伸び伸びとした環境の中で育まれた子どもたちが次の第二7年期で培うものは「感情」です。ちょうど学齢期として学校での学びが始まる7歳から14歳のこの7年間は、美しいもの、心を動かされるものにたくさん出会い、心が大きく豊かに成長する時期です。そこでシュタイナー教育では、この「心動かされる学び」ということをとても大事にします。7歳までの時と同じように、感覚を研ぎ澄まし感覚で得ることを大切にすることは変わりなく、そこに心も動かす体験も大切にしていきます。1年生の初めての授業は直線を描くというフォルメン線描といわれる授業。でもただ直線を描くだけでは何も心は動かされません。そこに、教師は子どもたちの心に触れるお話を準備してこの「直線を描く」という活動自体をとても大切に、とても丁寧に、とてもドラマティックにしていき、子どもたちが直線とどんな風に「出会う」かを考えて考えて、学びを作っていきます。ただの「直線」かもしれませんが、このように、その事柄とどんな風に「出会う」のか。この時に心を動かしながら出会えた子どもたちは、ゆくゆく世界の様々な事柄に、とても関心を持って、自分のこととして、「出会って」いけるようになるのです。

 日々、そんな風に様々な事柄との出会いを先生に準備してもらいながら心動かして学び過ごしてきた子どもたちが、14歳、第二7年期のちょうど最後の時期、大きな変化をまた迎えようとする時期に、シュタイナー学校では大きな演劇に取り組みます。「私って一体なんなのだろう。」と自分に真剣に向き合い、悩み、暗闇を過ごし始める時期。ブラック族とも言われ(笑)真っ黒な服に身を固め、ある子はいつでもフードをかぶって隠れていたいような時期。そんな時期の子どもたちが、あるお話の登場人物たちの生き様や心情を追い、その人その人のあり方を疑似体験ともいうべき演じることで、自分とは違う考え方や感じ方、生き方にも触れる体験をするのが、第二7年期の集大成ともいうべき演劇活動です。

 

 前置きが長くなってしまいましたが、先日私の息子がこの8年生演劇と呼ばれる劇を演じ終えました。題材は「ジョン万次郎」。幕末の時代に船が流されアメリカに渡ることになってしまったある少年の半生を物語にしたこのお話ですが、もう、、、笑あり、涙あり、こんなに感動をした劇があったかな、と思えるような素晴らしい演劇でした。何が素晴らしいか、というと、演じるのが上手、劇として完成されている、など、そういうことではありませんでした。息子たちクラス10人それぞれの個性が存分に引き出されていて、それぞれの持ち味がそのまま素直に表現されており、14歳のそのままの等身大の姿でこの劇に全身全霊でぶつかっているみんなのその健気さが、みずみずしくて涙を誘いました。2時間半もの大作を、この子たちが真剣に、万次郎とそれを取り囲む人々となって取り組んでいる、そのまっすぐでエネルギッシュな姿に、目頭が熱くなり感動でいっぱいでした。(息子はとてものんびりゆったりした子なのですが、粋がっているワルの若者、お茶目な船の親父、訛りの強いおとぼけ世話人、理解力のある殿様島津斉彬、と何役もキャラの違う役をこなし、笑いをちゃんととって(笑)。こんな面もあるのか!と親の私も知らない未知数の部分、驚きでした。他の子達もそれぞれ2〜4役こなし、みんなおもしろく、突き抜けててそれはもう本当に笑いと涙で圧巻でした!) 

 小さな頃を親もみんな知っているからこその感動なのかもしれませんが、それを抜かしても、この感動は素晴らしいものでした。

 

 心を動かしながら学びを続けてきた子どもたち、世界に出会いそれに触れてきた子どもたちの感性は、見ているものにも本物の感動を与えます。それは、技術やうわべの表現、などではありません。うまく言葉に表せませんが、全身全霊で、自分全てで。何事にも真剣に向き合い取り組む。その尊い姿・・・

 次は、いよいいよよき考えを自分で持つようになっていく、「思考」が育つ時期と言われている第三7年期の扉を開け始めた息子たち。よき仲間と、これからも自分の感覚や意志

を頼りに、心動く豊かな感情を持ちつつ、徐々に自分が世界に対して何ができるのかと考える素晴らしい「思考」を身につけていきながら、その子らしく自分の道を切り開いていってほしい。清々しく素晴らしい演劇を見せてもらったあと、この子たちの幸せな未来を願わずにはいられませんでした。

 

 子どもたちの未来は素晴らしいもの。世界中の子どもたちが、幸せな自分らしい道を生き生きと歩んでいけますよう。


あめつちの森

国東シュタイナー週末クラス

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